山形さくら町病院/かみのやま病院 広報誌
大槌町は北上山地から太平洋に開けた大槌湾へと注ぐ大槌川、小槌川が形成する小さな沖積平野の漁業の町です。井上ひさしの小説「吉里吉里人」の舞台、吉里吉里地区は大槌町の一部ですし、大槌湾にはテレビ人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった小さな蓬蓬菜島が浮かんでいます。きっとのどかな漁業の町だったのでしょう。そんな町を3月11日午後2時46分に東日本大震災が襲いました。そして10メートルをはるかに越える大津波とそれに生じた火災にで、この町は壊滅的な被害を受けてしまいました。町長さんもこの大津波で亡くなったことは、テレビなどで報道されていました。私はテレビの画面に映る大槌町の惨状を驚きと、どこか別の世界の出来事のように感じていました。
山形県心のケアチームの一員として釜石市(釜石保健所)を拠点に大槌町に行く。このことが決定されてからも、まだテレビの映像が実際に、目の前に現れることがあるのだろうか。そんな気持ちで準備を進めました。支援日程は上山病院7月8日~10日、山形さくら町病院7月16日~19日(1班)、7月19日~22日(2班)と決まりました。
釜石市に入り、町の中心部は何事もなかったかのように商店があり、一見普通の生活が営まれております。釜石駅を過ぎたところから町が一変し、建物の外枠がかろうじて残っているだけで、いたるところ瓦礫が積んである状態でした。
釜石保険上で前ケアチームから避難場所などを含めた引き継ぎがあり、大槌町の吉里吉里体育館、大徳院、赤浜小学校、安渡小学校、中東公民館を中心に医療支援活動を展開しました。大槌町の支援場所は、大津波に流されつくされ、ほぼ全壊した赤茶に焦げた町並みでした。支援活動内容は他県医療チームと連携しながら前述の避難所を巡回して、診察や血圧測定、健康相談などを行います。巡回診察すると血圧の高い方、環境変化から不眠に悩まされている方、アルコール問題を抱えているがご本人の問題意識が少ない方、服薬中断の心配がある統合失調症の単身者の方、適正な服薬指導が必要とされる方、また、健康に心配のある方々の相談に耳を傾け、少しでも不安やストレスが軽減されればとの思いで支援活動を行いました。支援3日目には避難所巡回中、地鳴りがしたと同時に余震に見舞われる、津波警報が発令され3時間の足止めも体験しました。
私たちの支援期間は、ちょうど避難所から仮設住宅への移動時期と重なりました。そのためもあってか診察予定日二会えないことも多々あり、支援できずに残念な思いもしました。私たちは日常の診療で、病院にいれば患者さまが来てくれるシステムに慣れています。今回の支援と通して、本来のそのシステムが不自然であることを感じさせられました。今後、仮説住宅に移された被災者方の心のケアは、地道な活動になることでしょう。PTSD、アルコール問題、子どもの心のケアや必死で住民を支える行政職員の疲弊など解決すべき問題はまだまだたくさんあります。
最後に高台から見た釜石湾の穏やかな海が、多くの命を奪った凶器に変わった瞬間をどうしても想像できませんでした。最近の報道では、大槌町の町長選挙も行われたようです。一日も早い被災地の復興を願い筆を書きます。
上山病院 江口拓也