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依存症 回復援助とイネイブリング

先日、三笠宮寛仁殿下が再入院されたと新聞等で報道されました。一昨年に自らアルコール依存症者(アルコホリック)であることを公表され、仙合での御公務に宮内庁病院から「外出」で臨まれました。「アルコール依存症の三笠宮寛仁です」が、名誉総裁あいさつの第一声だったそうです。

アルコール依存症は、さまざまな依存症・嗜癖(アディクション)の代表です。日本中、どこでも簡単に手に入り、時には望まない人にも強要(アルコールハラスメント、略してアルハラといいます)されることもある、アルコールという薬物(ドラッグ)が引き起こす病気だけに、かかる人も多く、日本中で220万~240万人と言われています。

本人の寿命を、平均52歳まで縮め、人間関係を壊し、周りの人もストレスで健康を損ないます。そして、多くの働き盛りの人をむしばんで、社会全体の大きな損失となっています。10年以上前の計算で損失の額は、年間6兆6千万円、酒税収入の3倍以上と言われています。でも、こんな話は病院に来て初めて知った、という人がほとんどなのです。

ここに、依存症という病気の怖いところ、『否認の病気』という性質が現れていると思います。

大きな問題があるのに、それを無意識のうちに、見ないようにする、なかったことにしようとする、してしまうのです。他の人からははっきり見える問題が、その問題にどっぷりはまってしまった本人には、わからなくなります。

うすうす問題に気づいていても、「自分一人でやめられる」(実際は、依存症からの回復には、適切な媛肋が必要です)、「大したことじゃない」(本人の命、周りの人、社会全体にも大きな危検なのに)など、その問題を小さなものだと無理に言い張ったり、何か他のもののせいにしようとしたり、というのが、心理学でいう『否認』なのです。

そして「アルコール依存症者の○○です」と声にだして、他の人に言うことは、『否認』を打ち破る、依存症と闘うということなのです。

これまで、社会全体でも目をそむけられてきたアルコール問題・依存症問題に、最近少しずつ光が当てられるようになってきました。

たとえば、飲酒運転対策です。飲酒運転を「大目に見る」、交通事故の3割にアルコールが関係していた、という飲酒運転の影響に「目をそむける」のが『否認』です。また、飲酒運転に気づいても止めず、運転前に飲酒してしまう状態をかばって、問題を助長し、結局その人を助けることにならないのが『イネイブリング』という、依存症という病気のカラクリです。このカラクリを打ら破る対策で、死亡事故が減りました。依存症にかかった人達の回復のきっかけにもなって欲しいと思います。

また、国をあげての自殺対策でも、アルコール問題、依存症との関係に目が向けられてきました。アルコ一ルに酔った状態や、依存症のために追いつめられて自殺を図る人がたくさんいることに気づき、『イネイブリング』ではなく、回復援助が広がることを願っています。

山形さくら町病院 市川 信子