山形さくら町病院/かみのやま病院 広報誌
うつ病、抑うつ、うつ状態、神経症、適応障害、人格障害、躁鬱病、認知症(!)、非定型精神病、少し難しい書き出しですが、これらは全て同じ疾患に分類され得るということがあり、最近まで不思議でした。
最近、ある高名な先生の監修された、成書にあたり納得したことがありました。これは診断に納得したわけではまったくなく、このような混沌とした状態が存在している、歴史と経緯が概要明らかにされていたからです。
現在、保険診療する際には、病名を決定しICD-10やDSM-IVなる国際疾患分類に基づいた記号・番号まで記載することが求められます。ところが、これについて、しばしば異論を唱える議論が、医師の間でしばしば見られていました。私自身、臨床現場を多く経るにつれ、多彩な疾患者群と診断名の多さ、見立ての多様さ、そして、診断基準と分類の違いを実感することとなり、書き出しの疑問があった次第です。
特に、現在「双極性障害スペクトラム」と言われる、従来の躁鬱病やうつ病を含む概念への進化には、先人達の苦労が刻まれています。古くは、紀元前5世紀ヒポクラテスの記載に始まり、前2世紀頃に躁鬱病らしき概念ができ、19世紀独に至ると、現在も名を残す多くの先人精神神経科学者達により研究がなされ、第二次世界大戦等を経て、米国の精神医学が世界を席巻するに至ったなかで双極性障害という概念が生まれてきたと記してありました。
そして、未だに論争の整理は途上であり現疾患分類は、あくまで暫定的な分類であるという事を、成書に当然の如く述べてあることに驚きを隠せません。( - □ - )!!いわゆる内科・外科のような診断基準と、精神科の診断分類は質が異なるのです。
実際の臨床では、うつ病について、経験上漠然とした、立て分ける態度を取っていましたが、「内因性」と「神経症性」という立て分けの議論がいまだに、しかも学会を2分するかの如くある事を知り、さもありなんと納得したものです。
認知症と何の関係があるかと思うかも知れませんが、実は認知症と「高齢者うつ病」も関連が指摘され,議論の多いところなのです。今までは、脳血管障害合併によるアパシーの為に、認知症が「うつ」と言われたのではないかという解釈が多く、また理解もし易かったのですが、最近の研究成果などから、別の機序で認知症の予備軍である可能性が示唆されています。
振り返ってみると、今までも抗うつ薬が多くの認知症例に使用され、一定の効果(抗うつ作用を期待してではなく)が認められてきました。これらとは無関係ではないことが次第に解明されつつあると期待しています。
さらに、アルツハイマー病においても、診断基準の改定が進みつつあり、いわゆる「軽度認知機能障害」例において、「抑うつ」の位置づけが再検討される必要も出てきています。
高齢者の「うつ状態」は早期発見診断評価がこれまで以上に重要と思われます。
上山病院 田中康裕