山形さくら町病院/かみのやま病院 広報誌
若いころは一日で覚えられたのに、今は一度覚えても、いつの間にか忘れてしまうとお嘆きの方がいると思います。これは恐れる必要はありません。脳のメカニズムからすると当然のことです。脳は、何も刺激が来ないと一日で半分以上の情報を忘れます。全部覚えていたら、そのほうが大変です。いやな思い出や記憶を忘れられなかったとしたら、どうでしょうか。かなりストレスを感じてしまいます。人によってはそれで精神の不調をきたしてしまうかもしれません。忘れるのも、脳の大切な役割の一つです。
そのぶん、覚えようと思っていることは、何回も覚えなおすことが大事です。一度覚えて放置しておくと、しだいに脳が自然に忘れていってしまいます。それに対抗するには、一度覚えたことを忘れても、また覚えなおす習慣を作ることです。そうすることで、しっかりとした記憶が作られるのです。ちょっと難しいことを言うと、瞬間的に覚えたことと、何回か覚えなおして、自分の体で覚えたことは、記憶の種類が違います。たとえば電話番号などは聞いていてもよく忘れてしまいます。しかし、「君が代」はそれよりも長いですが、覚えてしまえば忘れないし、いざというときぱっとでてきます。これは、脳の違う場所に知識が蓄えられているからです。何回か覚えなおしたことは、知識が脳の別の場所に移り、より強い記憶になるのです。一度強い記憶になってしまえば、なかなか忘れません。したがって、忘れることはぜんぜんかまいません。問題なのは忘れた後です。忘れてもまた覚える。これを何度が繰り返すことで、強い記憶が増えていきます。
覚えなおすことは、ストレスをかるくするのにも役立ちます。いやなことをわざと忘れるのは難しいです。そのぶん、最近のいい出来事や、うれしかったことなどを頭の中で何回も再生してみましょう。いい記憶が強い記憶になり、心の支えになると思います。プレッシャーやストレスに負けない体質を作るのに、非常に役立ちます。